ゲーム理論の思考法 川西 愉(中経出版)
1.囚人のジレンマ
(1)2×2の表
①囚人Aが黙秘、囚人Bが黙秘(-1,-1)
②囚人Aが黙秘、囚人Bが自白(-3,0)
③囚人Aが自白、囚人Bが黙秘(0,-3)
④囚人Aが自白、囚人Bが自白(-2,-2)
(2)ナッシュ均衡は④の両者自白(懲役2年)
(3)互いに同じ行動をとって一番良いのは①の両者黙秘(懲役1年)
しかし、相手が裏切って自白すると最悪の結果(懲役3年)となってしまう
(4)最良の方法がわかっているにもかかわらず、
自分以外の誰かが抜駆けをするのではないかという可能性があるため互いに最良の方法を選べない状況
例:漁獲量の規制(全員が少しずつ規制するのが最良のルール)
→一部の人がルール無視して乱獲する事がある(利益を独り占めできるため)
(5)神の見えざる手が届かない
自己の利益のために行動しているだけだと、社会全体の利益に繋がらない場合もある
2.コーティネーション・ゲーム(例:βとVHS)
(1)2×2の表
①Aがβ選択、Bがβ選択(8,8)
②Aがβ選択、BがVHS選択(4,3)
③AがVHS選択、Bがβ選択(3,4)
④AがVHS選択、BがVHS選択(7,7)
→ナッシュ均衡は①の両者βもしくは④の両者VHS(どちらで均衡がとれるかは決められない)
(2)特別な理由がない場合、みんなが同調した方が互いに利益が得られる事がある
例:VHSとベータの争い
→ベータが若干性能が良かったが、絶対的な理由ではないため、先行普及していたVHSが勝利した
(3)参加人数が多ければ多いほど、一旦決まった事は変えにくくなる
必ずしも最良の選択とならない場合がある
例:好況、不況、習慣(残業、会議が当たり前となっている職場)
3.チキン・ゲーム
(1)2×2の表
①Aが下りる、Bが下りる(0,0)
②Aが下りる、Bが下りない(-5,5)
③Aが下りない、Bが下りる(5,-5)
④Aが下りない、Bが下りない(-20,-20)
→ナッシュ均衡は②もしくは③の何れかが先に下りる
4.マッチング・ペニーズ
(1)2×2の表
①出題側が表を決め、解答側が表を選ぶ(-1,1)
②出題側が表を決め、解答側が裏を選ぶ(1,-1)
③出題側が裏を決め、解答側が表を選ぶ(1,-1)
④出題側が裏を決め、解答側が裏を選ぶ(-1,1)
→ナッシュ均衡なし(例:ジャンケンも同じ)
5.ホテリング・ゲーム
(1)アイスクリーム屋Aがビーチの中央に出店すると、アイスクリーム屋Bもビーチの中央に出店する
→互いにお店の利益を最大にはできるが、一部の消費者(ビーチの端にいる人)には不便になる場合もある
(2)ラーメン屋は駅前に集中する
→互いに利益を最大にする事で、集中によるブランド化が生まれ互いに共存できる場合がある(例:秋葉原電気街)
(3)与党の政策、テレビ番組が中庸でありきたりになるのも同じ理由
より多くの支持、視聴者を取り込もうとすると、内容は中庸に近づいてしまう
6.ダイナミック・ゲーム
(1)バックワード・インダクション(後ろ向き帰納法)
①最後に意思決定する人から順に最適な行動を選んでいき、他の最適でない行動は消していく
②10を言ったら負けゲームの必勝法(ルールは最大3つまで一度に言える)
最後に9を言えば勝てる→「7,8,9」を言えば勝てる
→相手に6を言わせれば勝てる→自分が5を言えば勝てる→「3,4,5」を言えば勝てる
→相手に2を言わせれば勝てる→自分が1を言えば勝てる
(2)時間不整合(タイム・インコンシステンシー)の問題
①参入タイミングによって最適な行動が変わるような問題
相手が参入するまでは「徹底抗戦」と脅し、実際参入したら協調融和路線に変更する
②研究開発と特許の問題
特許という制度(利益が得られる保証)があるからこそ、コストをかけて研究開発できる
→特許による利益保護が過度だと高額販売することになり一般患者が購入できなくなる
→特許利益が後々、製薬会社の開発費用に繋がっている
(3)繰り返しゲームとトリガー戦略
①「囚人のジレンマ」ゲームが何度も繰り返し可能としたら、互いに黙秘が最適な行動となる
「相手が裏切ったら、やり返す」戦略(トリガー戦略)が可能となる事で、互いに最適な行動を取り合う協調が生まれる(フォーク定理)
②短期雇用(派遣)と長期雇用(正社員)
派遣は1回きりのゲームに近いため、協調関係が生まれにくいが、正社員は労使関係に協調関係が生まれやすい
7.感情とゲーム理論
(1)ムカデ・ゲーム
①Aさんがゲームやめる宣言すると眼の前にあるお金が全てもらえるが、
やめない(続ける)と宣言するとAさんは100円分没収、
ただしBさんに100円加算された形でゲームの継続停止権利が移る(それが交互に繰り返される)ゲーム
②合理的には最初の時点で「やめる」宣言するのがよいが、実際はある程度続いてから、A、B何れかが「やめる」宣言する事が多い
(互いに100円でも多く欲しいと思っているとゲームは継続する)
(2)エスカレーション・オークション
①競り落とした人の直前にコールした人は、その直前の競り値のお金を取られてしまうオークション
②そもそも参加しないのが一番合理的だが、1円でも安く買いたい人はオークションに参加してしまう
③選挙戦の資金集めに似ている(落選した候補はつぎ込んだ資金が全て無駄)
(3)最後通牒ゲーム
①1000円を二人のうち一方が決めた配分で分配し、
もう一方はその配分を受け入れるか拒否できる(拒否したら二人共1円ももらえなくなる)1回きりのゲーム
②配分された側がたとえ1円であっても受け入れるのが合理的だが、実際は拒否する人が多い
(分配する側も半分近い金額で分配を提案している)
(4)社会貢献ファンドのギミック
①ファンド(運用資金)の運用先を社会に貢献する企業・団体に限定している
②儲かるなら業態など何でもよいというより、どうせ運用してもらうなら社会貢献してもらいたいという
人がお金を寄付する時のメンタリティ(感情)を利用したファンド
③儲かればまさに儲けもの、損をしても寄付したと思えば何れにしても自分のプライドは傷つかないという意識をついた商品
通常のファンドで儲けようとして失敗すると、明らかに失敗した事が周囲にわかってしまい、プライドが傷ついてしまう