日本の「安心」はなぜ、消えたのか 山岸 俊男(集英社インターナショナル)
日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点
- 作者: 山岸俊男
- 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
- 発売日: 2008/02
- メディア: 単行本
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1.精神論は思考停止と同じ
(1)何でもかんでも「心がけ次第」「心構えが大事」と原因を心の問題に押し付けてはいけない
(2)心がけ、心構えを良くしなさいと唱えるだけでは、社会は決してよくなっていかない
相手を信用しても損をしない事を守ってくれる法制度が社会にあるのが前提
(3)旧ソ連、中国のように徹底した倫理教育を行っても、結局国民全体にとって「いい国」「美しい社会」は生まれなかった
①タブラ・ラサ(ホワイトボード)のように、真っ白な最初の状態から教育すれば立派な人間になるというのは神話
②人間も他の動物と同様にこれまで生き残るためのプログラムが脳に組み込まれている
2.いじめ問題と赤信号みんなで渡れば怖くない
(1)クラスの10人のうち4人がいじめを止めようとし、さらに1名が加わった瞬間に9名(87%)までいじめを制止する仲間は増える
→4名を超えると、その後9名近くまで加速して増えていく(赤信号を渡る人が4名を超えると、とたんに他の5名も渡り出す)
(2)クラスの10人のうち4人までいじめを止めようとしないと、そのうちいじめを制止する仲間は1名(10%)まで減ってしまう
→1名から4名まではなかなか増えていかない(赤信号を渡る人が4名を超えないうちは、それでも渡る人はせいぜい1名に収まる)
(3)限界質量40%を超えると一気に87%まで加速増加、超えないと10%まで加速減少
(4)限界質量(10名のうち4名)までアメとムチで引き上げるのも一つのいじめ対策(10名全てを常にアメとムチで対応するのは非現実)
3.正直者がトクをする社会を作る
(1)他人であっても信頼できる社会(=法制度のある社会)
→身内より他人と付き合った方がトクをするという社会
(2)古代の中国とローマの法制度の違い
①中国の法制度は皇帝が統治するためのツール(刑法、行政法)
②ローマの法制度にはローマ人のための商取引(民法、商法)があった
4.武士道と商人道
武士道の無私の精神(打算や私心を排除した自分がトクにならない生き方)は商人道(お互いトクになる生き方)とは相容れない
5.日本人の本当の心
(1)かつての日本のサラリーマンと江戸時代の武士の生き残り戦略
①終身雇用制で転職できないため、会社(主君)に忠誠心(滅私奉公)を示すのが、一番トクだっただけ
②最初から集団主義的な心があったわけではない
(2)自己卑下傾向(東アジアに多い)
①自分の成功は周りのおかげ、失敗は自分のせいと考える
②自分の欠点を見つめ、それを克服していく事が正しい生き方
→真の価値観として自己卑下しているかどうかは別で、日本人は建前(戦略)として謙虚な行動している可能性あり
(3)自己高揚傾向(欧米に多い)
①自分の成功は自分のせい、失敗は周りのせいと考える
②自分の長所を伸ばし、何事もチャレンジしていく事が正しい生き方
(4)日本人のパラドックス
①世間(自分以外の日本人)は集団主義的(自分よりも会社、組織を大事とする)と思っている
②自分は世間ほど集団主義的ではないと本音では思っている(ただし、実際の行動は別)
(5)日本は欧米より他者を信頼でき得る社会となっていない
①家族、村といった集団社会の中では、誰も安心しきっている(本来の意味での法制度による信頼関係が必要ない)
→ただし、集団以外(他人)となると、一切信用しない(人を見たら泥棒と思え)と極端な考え
→集団社会内の秩序安定が最優先であり、空気を読む(互いの関係性をわきまえ、出しゃばらず、波風立てない)生き方がよしとされる
②相互監視と村八分での厳罰により強制的に縛りつけられた社会
③村の外の社会(よそ者)では全く生活できない(他人を信頼するための判断基準を持たないため)
④「和の心」はあくまでも身内との間のみに成立する
⑤他者からの裏切りを経験すると、ますます信用しなくなる(ネガティブ・スパイラル)
(6)欧米における信頼社会
①欧米は「他人にはいい人もいれば、悪い人もいる」とリアリストな考え(楽観も悲観もしていない)
②他人(よそ者)であっても、協力を惜しまない(それで裏切られるリスクより、協力して得られるメリットの方が大きいと考える)
③他者からの裏切りを何度か経験するうち、見極めがよくなる(ポジティブ・スパイラル)
6.人間の知性(ホワード・ガードナー)
(1)言語的知能
(2)論理/数学的知能
(3)音楽的知能
(4)空間的知能
(5)身体運動的知能
(6)自省的知能(自分の心を理解する)
(7)対人的知能(他人の心を理解する)